げに恐ろしき衝撃体験:『パラサイト 半地下の家族』

(いつも通りですが、ネタバレは基本的にありませんので、未見の方もご安心ください)
(にわとりが本作を観たのは、パルムドール受賞で話題になった少し後でした。アカデミー賞4部門受賞の歴史的快挙の前に観られてよかったと思っています。劇場混んでるでしょうし、レイトマジョリティ感ハンパないですし)

韓国の映画監督といえばこの人しか知りません。『殺人の追憶』『スノーピアサー』をはじめ、クリーチャー映画マニアの端くれである自分があの金字塔『遊星からの物体X』と比肩するとも推す『グエムル-漢江の怪物-』など、次々と問題作を世に放ってきた鬼才ポン・ジュノ監督が、とんでもない怪作を出してきました。パルムドール受賞の妥当性については、歴代の受賞作が十分にニッチでディープゆえに基準が判らずなんとも言えないのですが、これが鑑賞というレベルではなく「体験」であるという意味では、例えば『カメラを止めるな!』などと同じ次元の作品だと思います(全然ベクトル違いますが)。

ジュノ作品では、覆し難い不条理なり格差なりといったプロットが用いられますが、今回はかの国が闇として抱える身分格差がストレートに描かれています。『母なる証明』で、田舎では概ねこれくらいの貧しさを強いられるものなのかと、若干の驚きをもって観ていたものが、本作では都市部での貧富が容赦なく描かれます。悲喜劇の舞台となる豪邸から少し離れるだけで、主人公一家が棲む汚い街が底なしの貧しさへの大きな口を開けるように待っています。豪雨の闇夜に彼らが逃げ帰る場面が圧巻で、これが恐らく韓国の素の姿なんだと震撼させられます。

豪邸に住む家族、その娘の家庭教師を突破口に、次々とパラサイトが進行していく過程は、ジュノ作品レギュラーともいえるソン・ガンホをはじめとしたその「半地下の家族」の飄々とした様子を見ているうちはほのぼのとしておりコミカルなのですが、中盤「半地下」の他にもう一層あったことが判明するあたりから、笑いもややブラックなものに変わっていきます。そして、暗部より放たれた狂気が暴れ出すクライマックスに恐怖することになるのですが、ここでのオチに頭をブン殴られるような衝撃を受けます。あぁ確かに伏線は十分にあって、むしろ必然ともいえるオチなんですが、それを実際に見せつけられるとまぁ。放心状態ですよ。さらに、最後のオチもまた…。

結局これ、端的にルサンチマン映画だよなと。作品中の仕掛けは随分と凝ってますが、持たざる者が持つ者を純粋に憎むという感情を、溜めて溜めて溜めた後に爆発させるというシンプルな話だったんだと。これまでのジュノ作品で主人公らが立ち向かってきたものが「犯罪者」だったり「怪物」だったり一応「罰せられるべき・倒されるべきもの」だったのに対し、今回は全然そうじゃないですからね。いやぁ、病んでますよかの国(これが実情だとしたらですが)。

なお、ソン・ガンホの演技は安定して素晴らしいとして、個人的によかったと思ったのが、まずは主婦としてはまるきりダメですべて家政婦任せ、子供の誕生会の仕切りだけは鉄壁で、夫とのセクロスにドラッグを所望する豪邸のママさん。「韓国版山口もえ」と評せる可愛らしいビジュアルと、騙されすぎのオツムの弱さのマッチングがマーベラス。そしてまた、狂気の怪物となった地下の旦那氏のイカれ具合が最高。人間、こうやって狂っていくんだなってのが怖いほど納得できるんです。

というわけで、かの国の暗部と比して日本は全然健全じゃないのとか、奈落の底を見ることで「あぁ、自分はまだ大丈夫かもな」と安心したい人などにはお薦めです。でも、却って己の中の狂気を意識しちゃうというリスクもありかと。ちなみに意外にも劇場には若い女性が多かったんですが、皆さん何を求めて観に来ていたんでしょう…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA