非常に人気のある作家ですが、自分はこれまであの『秘密』(広末涼子主演で映画化、未見)しか読んだことがなく、今回でようやく2冊目となります。『秘密』読了からはもう何年も経っているため、印象が純化されて、あの特殊なシチュエーションの中でのモワンとしたグレーな淫靡さと、オチの「そう来たか!」感しか記憶にありません。で、今回久々に東野作品を読んで、このオチの感触にデジャ・ヴが。 2作しか読んでいない自分が、さらに福山某主演で大ブレイクしたあの作品も全く観たことがない自分が簡単に結論付けるのはどうかと思いますが、この作者は仕掛け作りは非常に巧いです。が、抒情性という点ではイマイチですね。一言一句に色気だの殺気だのが伴わないというか、例えば本作の解説を引き受けている桐野夏生女史の作品なんかと到底比べることができません。レベルとしては赤川次郎と同等ですね(良いとも悪いとも言っていません)。 なんだか貶しているだけのようですが、十分にハラハラしましたし、夢中で読みました。それはやはり、作品全体を以って読者に対し壮大な罠を仕掛けようという心意気を感じたからです。そういう意図を持った作品という... Read More | Share it now!
奥田英朗『イン・ザ・プール』
伊良部、精神科医……なぁんか訊いたことあるなぁと思ったら、やはり数年前にTVドラマ化されてました。自分は全く観ていませんが、キャストを確認したところ、少なくとも伊良部本人とマユミについては原作のイメージとは全く違うように感じられるので、未見の方は極力そうした事前情報を排して本作を読んでいただきたいと思います。 奥田作品は長編と短編集を1冊ずつしか読んだことがなかったのですが、強迫的に不幸へと転がり落ちていく様を描かせたら天下一品だわ…と思っていたら、まさに本作もその様相。しかも各話共精神科を最後の砦としてやってくるような人々が主人公なので、そりゃぁまぁその転がり落ちる傾斜角度たるや半端じゃありません。しかし、どんな強烈な思い込みの患者が訪れても、超絶マイペース振りで対応する伊良部医師とマユミさん。結果的には、それぞれの患者達の症状は改善していくわけですが、それがあくまで自分達の気付きによるものだというところが本作の肝です。マイペースな医師と看護婦はあくまで触媒であり、展開に全くお仕着せがましいところがありません。 ピタリということがなくても、本作で取り扱われている症状群に... Read More | Share it now!

